ソーラーシェアリングに失敗したという事例をよく見かけるわね。
農業と太陽光発電の両方に詳しくないといけないから、両立が難しいのかもしれないわ。
実際に失敗した理由やデメリットが分かれば、これから始めるソーラーシェアリングに活かせそう!
ソーラーシェアリングが失敗する理由や、成功するためのポイントを説明するので参考にしてみてね。
ソーラーシェアリングが失敗する理由
ソーラーシェアリングは、実際に農業を行っている農地に太陽光発電を設置して、土地をシェアする運営方法で「営農型太陽光発電」と言われます。
全く異なる系統の事業を同時進行するため、様々な要因でソーラーシェアリングに失敗する可能性があります。
ソーラーシェアリングで失敗してしまう理由にはどのようなものがあるか、事例を見ていきましょう。
黒字化まで時間がかかる
一般的な産業用の太陽光発電と比較すると、ソーラーシェアリングは初期費用が高い傾向です。
このため初期費用を回収して黒字化するまでに、長い時間がかかる点が失敗の原因になるケースがあります。
産業用の太陽光発電では10年かからないくらいで初期費用を回収できますが、ソーラーシェアリングの場合は10年以上の期間が必要です。
黒字化できるまでの間に農作物の収穫量が減少すると、太陽光発電設備の撤去が必要になりソーラーシェアリングが失敗になりかねません。
作物への太陽光が遮られる
ソーラーシェアリングでは農作物を栽培している真上に太陽光パネルを設置するため、作物への日当たりが悪くなります。
日光が生育に欠かせない種類の農作物の上に太陽光発電を設置する場合に、遮光率を間違えると作物がうまく育たず収穫量が減少してしまいかねません。
ソーラーシェアリングは農業をメインにしているため、農作物を収穫して収益が上がらないと、失敗になります。
周辺農家にまで影が発生する場合もある
農地同士が隣り合っている土地で運営するソーラーシェアリングでは、近隣の農家の土地に太陽光パネルで影ができると失敗の原因になります。
隣の農地に影ができても、農作物の収穫に支障がなければ問題にはなりません。
しかし農作物の成長に大きく影響する場合は、ソーラーシェアリングを行うことに理解を得られない可能性が高いです。
ソーラーシェアリングで失敗しないために、近隣の農家にも配慮した太陽光パネルの導入方法を検討することが重要になります。
農作業の効率が落ちる場合がある
ソーラーシェアリングでは農地に支柱を立て、その上にソーラーパネルを設置します。
この支柱を設置する位置によっては、重機を使用できる範囲を狭めてしまい農作業の効率が下がる懸念があります。
農作業の効率が悪くなると作物の収穫量に影響して、ソーラーシェアリングに失敗してしまいかねません。
重機の使用を考慮したソーラーパネルの配列を計画段階でしっかり設計して支柱を立てれば、効率悪化による失敗を防げるでしょう。
後継者へ教える内容が増える
ソーラーシェアリングをそのまま事業継承する場合、後継者は農業と太陽光発電の両方について覚える必要があります。
農業と太陽光発電ではノウハウが違うため、覚えなければいけないことの量が膨大になり、後継者が育たないことも考えられます。
後継者が育たなければソーラーシェアリングを継続できず、失敗してしまうかもしれません。
数年かけて農業と太陽光発電、それぞれのノウハウをじっくりと覚えてもらうための計画が必要です。
営農への気が抜ける
農業を営んでいる方が発電の事業者としてソーラーシェアリングをする場合、発電設備に気が向いて、熟知している農業がおろそかになってしまう可能性もゼロではありません。
ソーラーシェアリングは農業をメインにすることを前提に、太陽光発電設備の設置を自治体が許可しています。
農業で一定の収穫量を確保できなければ、初期費用を回収できていなくても太陽光発電の撤去が必要になる可能性もあります。
ソーラーシェアリングを失敗に終わらせないためには、農作物の生産量を増やす取り組みが大切です。
ソーラーシェアリングの成功事例
実際にソーラーシェアリングを有効活用し、成功している営農型太陽光発電があります。
ここではソーラーシェアリングに取り組んだ成功事例を、いくつか紹介します。
耕作放棄地が農地として再出発
「匝瑳(そうさ)メガソーラーシェアリング第一発電所」は日本で最初に運用を開始した、設備容量1MWのソーラーシェアリングの成功事例です。
千葉県匝瑳市で15年以上農業に使われていなかった耕作放棄地を再び農業に活用し、地域活性化にも貢献しています。
農作業は地域の農業生産法人に委託し、委託料の一部に売電収入が使われています。
ソーラーシェアリングのパネルの下では有機大豆と有機麦が栽培されており、農業に向かないと言われていた土地が農地として再出発した事例です。
観光農園に日陰ができ好評
千葉県いすみ市の五平山(ごへいやま)農園は、農地の1区画でソーラーシェアリングを運営している観光農園です。
面積が1,000平方メートルの土地に設備容量49.5kWの太陽光発電設備を設置し、ソーラーパネルの下側では、ブルーベリーを栽培しています。
夏季に行うブルーベリー狩りでは、ソーラーパネルで日陰ができるため涼しいと人気です。
日陰ができたことで乾燥を防止できて散水作業が楽になり、ソーラーシェアリングが農作業の負担軽減にも繋がっています。
電気代の削減
宮城県気仙沼市のサンフレッシュ小泉農園では、2,200平方メートルの土地でばれいしょを栽培するソーラーシェアリングを運営しています。
ソーラーシェアリングで発電した電気は、隣接するトマト栽培施設や重機の充電で自家消費し、年間で約600万円の電気代を削減している成功事例です。
今後の課題として、電力の消費量が少ない時期に電気を溜めておくための蓄電池導入や、二酸化炭素削減に貢献している農産物としてのブランド化などが挙げられています。
災害時の電源を提供
千葉県匝瑳市豊和村(そうさしとよわそん)の市民エネルギーちば株式会社が運営するソーラーシェアリングは、600平方メートルの土地で大豆を栽培している営農型太陽光発電です。
2019年9月5日に発生した「令和元年房総半島台風」で停電が発生した翌日から、PCやスマートフォンの無料充電所として地域に提供し、約150名が利用しました。
豊和村では災害時に充電設備を提供できるように、地域で運営している全ソーラーシェアリングで体勢を整える検討をしています。
ソーラーシェアリングのデメリット
ソーラーシェアリングは、これまで発電設備設置の許可が下りなかった農地にも太陽光発電を設置できる方法として注目されていますが、いくつかのデメリットがあります。
ここではソーラーシェアリングで営農型太陽光発電を行う際に、どのようなデメリットがあるのかを解説します。
20年間農業を継続しなければならない
FIT制度を適用して売電する場合、20年間は農業を続けなければいけない点が、ソーラーシェアリングのデメリットです。
食料不足を招かないように、農地として登録されている土地は農業以外の目的での利用が禁止されているため、本来は農地に太陽光発電の施工はできません。
ソーラーシェアリングでは、農業がメインの土地であることを条件に農林水産省より農地への発電設備の設置を許可されています。
20年間の継続が難しい場合は、農業の後継者を育てる、FITを利用せずに売電するなどの検討が必要です。
融資がおりにくい
一般的な投資用の太陽光発電と比較すると、ソーラーシェアリングの太陽光発電では金融機関からの融資を受けにくい傾向があります。
ソーラーシェアリングは農業の収入が減少すると、発電設備撤去の指示が出る可能性があり、金融機関でも設備や売電収入を担保として考えにくいことが理由です。
農業の将来性が分かる詳細な事業計画書を作成した上で、ソーラーシェアリングへの融資を金融機関に申請するようにしましょう。
費用が割高
ソーラーシェアリングでは農作業や農作物の育成に影響が出ないように、高さを出した架台に太陽光パネルを設置するため、全体的に費用が割高です。
通常の太陽光発電よりも必要な部材が多いので部材や施工の価格が高く、定期点検やメンテナンスにかかる費用も割高になります。
初期費用や維持管理費用が割高になることを加味した上で、ソーラーシェアリングの収支計画を立てるようにしましょう。
収穫状況の報告書がいる
営農型太陽光発電を行う農家には、毎年1回農作物の収穫状況を行政に報告する義務があります。
行政では、報告書から以下のような内容を確認しています。
- 適切に農業が行われているか
- 農作物の品質が落ちていないか
- 収穫量が基準を下回っていないか
農地で太陽光発電をするために不要な作物を作っている、品質が劣化しているなどと判断されると、ソーラーシェアリングが継続できません。
このため年1回の収穫状況の報告は、ソーラーシェアリングのデメリットになるでしょう。
申請手続きがいる
農地でのソーラーシェアリングを開始する前に、一時転用を地域の農業委員会に申請して農地転用許可の取得が必要です。
一時転用は期限付きで農地転用を許可してもらう制度で、基本は3年ごとに申請を行います。
ただし以下に該当する農地をソーラーシェアリングに利用する場合、一時転用の期間は10年になります。
- 耕作放棄地
- 市街地に近い第2種農地または第3種農地
上記以外の農地では一時転用期間が3年のため、同じ申請を何度も行わなければいけない点がソーラーシェアリングのデメリットです。
条件未達の場合に原状回復が必要になる
農業での収穫量が安定していないとソーラーシェアリングの継続が認められず、農地の原状復帰を求められる可能性があります。
満たさなければいけない基準は、以下のとおりです。
- 同年同地域の平均的な収穫量と同等~8割以内の実績であること
- 荒廃地を営農に再生した場合は、適正に利用し効率良く農作業をしていること
上記の条件を満たさないと行政に判断された場合に、営農型太陽光発電を続けられない点がソーラーシェアリングのデメリットになります。
ソーラーシェアリングのメリット
ソーラーシェアリングで営農型太陽光発電をすると得られるメリットもあります。
どのようなメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。
売電収入を得られる
太陽光発電による売電収入がある点が、ソーラーシェアリングのメリットです。
ソーラーシェアリングは太陽光発電システムの容量に関係なく、全量買取の対象になります。
このため、太陽光発電の規模によっては安定した金額での売電収入が見込めます。
猛暑や台風などが原因で想定外に収穫量が減少した場合も、農業以外での収入があれば資金面での負担を軽減できるでしょう。
電気代を削減できる
営農型太陽光発電で発電した電気は、自家消費にも利用して電気代を節約できます。
実際に以下のようなことに、発電した電気を利用して電気代を削減しているソーラーシェアリングの成功事例があります。
- ビニールハウスの暖房
- 倉庫の冷房
- 重機の充電 など
農作業に再生可能エネルギーで発電した電気を利用できる点も、ソーラーシェアリングを行うメリットの1つです。
固定資産税を抑えられる
ソーラーシェアリングには、固定資産税を抑えられるメリットがあります。
農地は固定資産税の負担が少ないように優遇を受けられますが、宅地や雑種地では優遇されません。
営農型太陽光発電では農地を一時転用して発電設備を施工しますが、支柱を設置している部分のみが雑種地とみなされます。
このためソーラーシェアリングの土地は、基本的にほとんどが農地のままのため固定資産税の優遇を受けられることになり、節税に繋がるでしょう。
作業中の熱中症対策になる
太陽光パネルで影ができる環境で農作業ができて、夏場は熱中症対策もできるのがソーラーシェアリングにおいてのメリットです。
直射日光の下で長時間農作業をしていると、体温の調整がうまくできなくなって熱中症を発症する可能性が高くなります。
健康面でのリスクを抑えながら農作業をしたいとお考えの方には特に、ソーラーシェアリングが向いていると言えます。
ソーラーシェアリングで失敗しないコツ
ソーラーシェアリングで農業と太陽光発電の両方に成功するために、抑えておきたいポイントがあります。
どのような点を意識すれば失敗しないのか、そのコツを紹介します。
営農を最優先する
ソーラーシェアリングで失敗しないために大切なのは、農業で成果を出すことをメインにして太陽光発電の運営方法を考えることです。
太陽光パネルを設置する位置や遮光率など全て、発電量ではなく農作業をするときの効率を最優先にした検討が必要になります。
太陽光発電が農業に悪い影響を与えていると判断されてしまったら、ソーラーシェアリングは続けられません。
反対に発電量が少なくてもソーラーシェアリングは継続できるため、農業を最優先に考えましょう。
自家消費する
売電収入を得ることにこだわらず、自家消費も検討しましょう。
全量買取できる太陽光発電では、売電収入を初期費用の返済に充てる運用が一般的です。
しかし容量が50kW以上の太陽光発電の2023年度のFIT単価は9.5円で、設備の規模が小さいと安定した売電収入が見込めません。
このため農作業で発電した電気を自家消費すれば、電気代を節約できます。
電気代が高騰している状況では、支出を抑えた分で初期費用の返済をまかなうのがソーラーシェアリングで失敗しない方法と言えるでしょう。
20年間の人材確保を考える
固定価格買取制度を利用して売電する場合、20年間は農業も太陽光発電も継続が必要なため、必要に応じて両方の担い手を探す必要があります。
しかし日本では農家の高齢化が進み、後継者不足が深刻な問題です。
ソーラーシェアリングで失敗しないように、後継者を早めに育てる、農業の委託先を見つけておくなど人材を確保する方法を検討しておくことが大切になります。
適した作物を育てる
影ができて直射日光がなくても問題なく成長できる作物を育てることが、ソーラーシェアリングで成功するために重要なポイントです。
一般的には以下に分類される作物が、パネルの下でも栽培できると言われています。
種類 | 特性 |
---|---|
陰生植物 | 直射日光が当たらない日陰か半日陰を好む植物 |
半陰性植物 | 直射日光がなくても、日照が1日あれば成長できる植物 |
作物の特性を理解して、ソーラーシェアリングで栽培する作物を決めれば失敗を回避できるでしょう。
ソーラーシェアリングに向く作物
ソーラーシェアリングに向いている作物の種類は、以下の2つです。
- 陰生植物
- 半陰性植物
ここではソーラーシェアリングで実際に栽培されている作物と、その選び方を説明します。
向く作物
ソーラーシェアリングでの栽培に向いているのは、直射日光が当たらなくても成長できる作物です。
農林水産省の資料によると、太陽光パネルの下部で栽培されている作物は以下の表のようになっています。
種類 | 割合 | 主な作物 |
---|---|---|
野菜 | 35% | 小松菜、白菜、ねぎ、カボチャ、いも類、みょうが など |
観賞用植物 | 30% | さかき、たまりゅう など |
果樹 | 14% | ブルーベリー、柿、ぶどう など |
その他 | 12% | しいたけ、きくらげ など |
土地利用作物 | 9% | 米、麦、大豆、そば |
作物の選び方
ソーラーシェアリングでの栽培に適した作物を選ぶ方法は、以下の2つです。
- 営農型太陽光発電の成功事例で栽培している作物から選ぶ
- 作物の性質を理解して選ぶ
既に成功事例があって、自分の土地の土壌でも育てやすい作物ならソーラーシェアリングに向いている作物と言えます。
また作物が成長するのに直射日光が必要か、なくても問題がないのか、性質を見極めて選ぶ方法もあります。
上部に太陽光パネルを設置すると影ができるので、日陰でも問題なく成長できる性質の作物を選ぶことが重要です。
ソーラーシェアリングでよくある質問
ソーラーシェアリングについてのよくある質問と、回答をまとめました。
営農型太陽光発電を検討している方が、どのような疑問を持っているのかを見ていきましょう。
農地以外でもできる?
農地以外の土地に太陽光発電を設置できない決まりがないため、何も障害物がなければ土地のシェアは不要です。
ソーラーシェアリングは「営農型太陽光発電」とも呼ばれています。
環境負荷を軽減するために、本来は農業以外での利用が禁止されている農地に太陽光発電を設置する方法としてソーラーシェアリングが普及した背景があります。
農地以外の土地で植物を育てながら、上部に太陽光発電を設置することはできますが、費用が割高などのデメリットが大きいでしょう。
設置条件は?
農林水産省が公表している「営農型太陽光発電について」では、ソーラーシェアリングでの太陽光発電の設置条件は、以下のようになっています。
- 該当地で農業を適切な運用で継続できることが確実
- 農作物の育成に配慮した太陽光発電の設計
- トラクターなどの使用に制限がない
- 近隣の農地での農作業に配慮した設計
農業の適切な運用とは、営農が行われていて、基準を満たした収穫量で一定の品質を保った作物が栽培されていることです。
上記の条件を満たしていなければ、農地転用の許可がおりずソーラーシェアリングができません。
補助金はある?
ソーラーシェアリングに利用できる補助事業は、環境省や農林水産省が実施しています。
補助金は毎年年度の初めに公募されるため、2023年8月現在では受付が終了した補助金制度ばかりです。
補助金の利用を検討されている場合は、こまめに省庁のホームページを確認して期間内に利用申請をしましょう。
ソーラーシェアリングで失敗しないために注意点を押さえよう
ここまでソーラーシェアリングが失敗する理由やデメリットについて、解説してきました。
ソーラーシェアリングが失敗してしまう理由は、初期費用が回収できるまでに時間がかかることや農作業の効率が落ちて収穫量が減少することなどがあります。
しかし営農をメインに考えたり、適切な作物を選んだりすればソーラーシェアリングでの失敗を回避できます。
営農型太陽光発電を検討されている方は、本記事を参考にソーラーシェアリングでの成功を目指してみてはいかがでしょうか。