有機薄膜太陽電池って、どんな特徴があるのかな?
まだ実用化されている製品が少ないから、分からないことが多いわよね。
有機薄膜太陽電池とは?原理や仕組みを解説
有機薄膜(はくまく)太陽電池(OPV)は有機半導体を原料とする、次世代の太陽電池です。
以下では発電の仕組みや、ペロブスカイト太陽電池との違いを解説します。
原理や仕組み
太陽電池は一般的に2種類の無機半導体を貼り合わせ、電気を流すための導線で半導体同士がつなげられています。
太陽光が当たると、マイナスの電気が集まるn型半導体からプラスの電気が集まるp型半導体に向かって電流が流れるのが太陽光発電の原理です。
有機薄膜太陽電池ではn型半導体に共役系高分子のフラーレン誘導体(ドナー材料)、p型半導体に伝導性ポリマー(アクセプター材料)を合成した溶液が採用されています。
有機半導体を用いた太陽電池は、シリコン系と比べて発電効率が低いのが現状です。
高性能で耐久性がある半導体の合成方法が開発されれば、有機薄膜太陽電池が太陽光発電市場に増えていくでしょう。
ペロブスカイトとの違い
有機薄膜太陽電池とペロブスカイト太陽電池との違いを、以下の表にまとめました。
比較項目 | 有機薄膜太陽電池 | ペロブスカイト太陽電池 |
---|---|---|
半導体の主な材料 | 炭素や硫黄原子などを含む有機物 | ヨウ化鉛やメチルアンモニウムなど |
変換効率 | 13.1% | 18.6% |
想定されている用途例 | 農業用ビニールハウスへの設置 ウェアラブル端末の電源など |
壁面や耐積載量が少ないビル屋上への設置 ウェアラブル端末の電源など |
廃棄方法 | 有害物質は含んでいないが、産業廃棄物として適切な廃棄が必要 | 有害物質の鉛を含むため、リサイクル・リユース推奨 |
有機薄膜太陽電池においては、バイオ材料由来物質のみを原材料とする有機半導体合成の研究・開発を進めている研究室もあります。
この技術が実用化されれば、太陽光発電による環境負荷の軽減に大きく貢献できるでしょう。
有機薄膜太陽電池のデメリット
2023年10月現在もメーカーや企業が、研究・開発を進めている段階の有機薄膜太陽電池には様々なデメリットがあります。
有機薄膜太陽電池がクリアするべき課題がどのようなものか、詳しく説明します。
シリコン系に比べて変換効率が低い
有機薄膜太陽電池は、光エネルギーを電気に変える変換効率の低さがデメリットです。
シリコン系の太陽電池では変換効率24.7%が最大ですが、2023年10月時点での有機薄膜太陽電池の最大変換効率は13.1%になります。
とはいえ有機薄膜太陽電池を実用化するべく、発電層に使用する有機半導体の合成技術などの研究・開発や実証実験などが行われている最中です。
今後の技術開発で、高い変換効率の製品が生み出されるでしょう。
耐久性が低い
耐久性の低さも有機薄膜太陽電池のデメリットと言われています。
有機薄膜太陽電池の耐久性を下げる要因は、以下の4つです。
- 光(紫外線)
- 熱
- 水分
- 酸素
太陽光をエネルギー源として発電する有機薄膜太陽電池ですが、光に弱い特徴があります。
熱や水分、酸素にも弱いことから有機薄膜太陽電池は屋外設置に向かない印象です。
しかし、これらの弱点を克服して耐久性を向上させた製品が開発されるかどうかが、薄膜系太陽電池普及の鍵になるでしょう。
実用化の実績が少ない
日本でも有機薄膜太陽電池の製品化に成功したメーカーや、海外メーカーが製造した製品を販売する企業がありますが、実用化の事例はまだ少ない状況です。
製品化の実績が少ないと、以下のようなデメリットが考えられます。
導入後にどのようなトラブルが発生するか予測が難しい
高効率で低単価な製品が後から販売開始される可能性が高い
フィルムという形状から、シリコン系太陽光パネルでは設置がかなわなかった所にも設置できる点が、有機薄膜太陽電池の特徴です。
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、太陽光発電の導入拡大が必要になっている今、有機薄膜太陽電池の実用化は急務と言えます。
有機薄膜太陽電池のメリット
製造工程のほか、軽量、フレキシブルといった特徴から、有機薄膜太陽電池を導入すると得られるメリットがいくつかあります。
有機薄膜太陽電池にどのようなメリットがあるか、1つずつ見ていきましょう。
生産コストが低い
製品完成までの製造工程が少なく、コストがかからない点が有機薄膜太陽電池のメリットです。
有機半導体をフィルムタイプの基板に塗布する方法で、有機薄膜太陽電池は作られます。
基板がもろく壊れやすいため両面をガラスパネルで補強するシリコン系太陽電池と比較すると、印刷技術で製造できる有機薄膜太陽電池は生産コストが低いです。
製造にかかるコストが少ない分、製品化した際の販売価格が抑えられる可能性があります。
軽量で屋根への負担が少ない
有機薄膜太陽電池は軽量で、耐荷重が少ない屋根でも負担が少ないメリットがあります。
シリコン系の太陽光パネルは平均で1平方メートルあたり12~17kg程度の重量ですが、有機薄膜太陽電池の重量はこの1/10程度です。
住宅用太陽光発電では、太陽光パネルの重量が屋根に負荷をかける点がデメリットでした。
有機薄膜太陽電池なら、屋根への負担を減らして太陽光パネルを設置できるようになります。
曲げられるので設置の選択肢が広がる
有機薄膜太陽電池はシート状で曲がるため、シリコン系太陽光パネルのように設置場所が限定されない点がメリットです。
曲げられる特徴を活かした有機薄膜太陽電池の設置場所には、以下のような所が考えられます。
- ビニールハウスの屋根
- 自動車の屋根
- カーブした建物の壁面
- ビルの屋上に設置された貯水槽の外周
強化ガラスで覆われた一般的な太陽光パネルでは不可だった場所にも太陽光発電を設置できるのは、有機薄膜太陽電池の大きな特徴と言えるでしょう。
有機薄膜太陽電池の開発・販売メーカーリスト
日本で有機薄膜太陽電池を開発したり、販売したりしている企業やメーカーをリスト形式で紹介します。
メーカー | 特徴 |
---|---|
Looop | ドイツのHeliatek(ヘリアテック)社製の製品を日本独占販売 |
リコー | センサーの電源に使用する目的で開発 |
東レ | ウェアラブルテキスタイルへの搭載目的で開発 |
住友化学 | 有機ELの開発技術を応用し、発電効率10.6%を実現 |
カネカ | 複数の波長域の光で発電できる製品を研究 |
三菱ケミカルホールディングス | 透明な有機薄膜太陽電池を製品化 |
それぞれのメーカーの有機薄膜太陽電池の特徴を、詳しく見ていきましょう。
Looop
株式会社Looopは、ドイツに本社を構えるHeliatek(ヘリアテック)社製の有機薄膜太陽電池であるHeliasol(ヘリアソル)を、日本で独占販売できる契約を締結しています。
2022年8月に発表されたHeliasolの製品スペックは、以下のとおりです。
項目 | スペック詳細 |
---|---|
外形寸法 | 長さ:2,000mm 横幅:436mm 厚さ:1.8mm ※ジャンクションボックスを除く |
重量 | 1平方メートルあたり2kg未満 |
公称最大出力 | 50W・55W |
保証内容 | 製品保証:5年 出力保証:20年 |
Heliatek社製のHeliasolは、荷重制限で従来の太陽光パネルが設置できなかった屋根や壁面への設置が使用用途として想定されています。
リコー
株式会社リコーは、九州大学と共同で開発した有機薄膜太陽電池(環境発電デバイス)のサンプル提供を開始すると2021年8月に発表しています。
IoT(アイオーティー)製品の普及が進み、温度や湿度、防犯用のセンサーを家庭に導入する事例が増えている中で、センサー類は電池交換が必要な点が課題でした。
照度が低い室内の明かりや日陰の屋外でも発電できる有機薄膜太陽電池をセンサーに搭載することで、電池交換や充電の負荷を減らすことを目的としています。
東レ
東レ株式会社は理化学研究所などとの国際共同研究チームで、耐久性や耐水性に優れた洗濯可能な超薄型の有機薄膜太陽電池の開発に成功したと2018年4月に発表しています。
開発された有機薄膜太陽電池の利用用途は、衣服に取り付ける生体モニタリング用のウェアラブルセンサーの電源です。
血圧や体温などを継続的にモニタリングすることで、脳梗塞などの重大な疾患を早い段階で検知できるようになると考えられています。
住友化学
住友化学株式会社はディスプレイや照明に使用する有機ELの研究・開発のほか、様々な科学製品の開発事業を行っている企業です。
米国のカリフォルニア大学ロサンゼルス校が住友化学の技術を応用した研究で、2012年当時では世界最高水準となる変換効率10.6%の有機薄膜太陽電池の製造に成功しています。
しかし、その後どのように有機薄膜太陽電池の開発が進められているかは、公表されていないため不明です。
カネカ
カネカは大阪大学と2008年から3年間限定で「有機EL照明デバイス」と「有機薄膜太陽電池」の、共同研究を行っています。
共同研究では、有機EL照明デバイスの開発で得た技術やノウハウを活かし、複数の波長域の光から発電できる有機薄膜太陽電池の開発が目指されていました。
現在カネカでは、ペロブスカイト太陽電池の開発に力を入れて研究・開発を進めていくことを2022年に公表しています。
三菱ケミカルホールディングス
三菱ケミカル株式会社は有機薄膜太陽電池を製品化することを、2015年8月に公表しています。
製品化された有機薄膜太陽電池は透明で、窓にも設置できる点が特徴です。
壁面や耐荷重が低い屋根や屋上に有機薄膜太陽電池を設置することで都市部での太陽光発電を増やし、再生可能エネルギーによる発電量増加が想定されていました。
窓用の有機薄膜太陽電池については、ふせんやガムテープなどでも有名なスリーエムジャパン株式会社の商流で販売されています。
有機薄膜太陽電池の実用事例
兵庫県神戸市に本社を置く株式会社MORESCO(モレスコ)が製品化した有機薄膜太陽電池が、各地で実際に導入されています。
以下では、3件の導入事例を紹介します。
大丸松坂屋百貨店
1つ目の事例は、大丸松坂屋百貨店の大丸神戸店です。
店舗ではなく、ビジネスエリアにMORESCOの有機薄膜太陽電池が導入されました。
有機薄膜太陽電池で発電した電気は蓄電池に溜められ、会議用のモニターなどで電力が使用されています。
兵庫県庁
兵庫県庁にもMORESCOの有機薄膜太陽電池が2019年から2年間、導入されていました。
県庁で展示されているジオラマの中で、模型の電車が走る動力に使われたのが、有機薄膜太陽電池で発電した電気です。
神戸どうぶつ王国
神戸どうぶつ王国には、有機薄膜太陽電池が葉っぱの形状にデザインされた太陽光発電設備として導入されています。
五角形のベンチの真ん中に有機薄膜太陽電池が設置されており、内臓された蓄電池に電気を溜める仕組みです。
ベンチにはUSBの差し込み口があるため、利用者がスマートフォンの充電などに電気を利用できるようになっています。
有機薄膜太陽電池の開発・実用化が進めば選択肢が広がる
ここまで、有機薄膜太陽電池の原理や仕組みなどを説明してきました。
製品化に辿り着いているメーカーもありますが、耐久性や発電効率の向上など有機薄膜太陽電池には課題も多く、各メーカーが実用化に向けた技術開発を進めている状況です。
有機薄膜太陽電池の開発や実用化が進めば、これまでは難しかった場所にも太陽電池を設置できるようになり、ますます太陽光発電の普及が加速していくでしょう。