海洋温度差発電(OTEC)の仕組みとは?
海洋温度差発電(OTEC)とは、海深層の冷たい海水と、太陽に熱せられた海表面の温かい海水の温度差を利用して電力を発電する技術のこと。
海の温度差を利用した再生可能エネルギーの一種で、英語で表記した際の「Ocean Thermal Energy Conversion」の頭文字をとって、OTEC(オテック)と呼ばれることもあります。
海洋温度差発電の歴史
フランスの物理学者のジャック=アルセーヌ・ダルソンバールが1881年に提唱した説が海洋温度差発電の始まりとされています。
海洋温度差発電はウランや化石燃料に頼らず、未利用の海洋の熱エネルギーを活用する再生可能エネルギー技術として注目されており、下記のような発電規模が期待されています。
予定年度 | 予定発電規模 |
---|---|
2020年までに | 510MW |
2030年までに | 2,550MW |
2050年までに | 8,150MW |
海洋温度差発電の仕組み
海洋温度差発電は、太陽光により温められた海洋表層水と、海洋を循環する冷たい深層水の温度差を利用して発電します。
海洋温度差発電の原理は、海水を蒸発させることで発電する仕組みです。深層水を加熱して蒸気を発生させ、蒸気を使ってタービンを回し、発電します。その後、蒸気を凝縮させて再度深層水に戻すことで、サイクルを繰り返します。
海洋温度差発電の適用条件
年間平均20℃以上の温度差がある地域での稼働が期待されており、日本では沖縄県を中心に、小笠原諸島や黒潮流域などの地域での稼働が可能です。
海洋温度差発電の実証実験は、株式会社商船三井が既に沖縄県で行っており、現在は複合発電システムの建設が進んでいます。
海洋温度差発電のコスト
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の発表によると、海洋温度差発電の発電コストは下記のとおり。
出力 | 発電コスト |
---|---|
10MW級 | 約20円/kWh前後 |
100MW級 | 約10円/kWh |
これは既存の火力発電や原子力発電に匹敵する、極めて優秀な発電コストです。
ただし、この発電コストは、設置海域を沖縄周辺に設定した場合のものであり、設置場所によってはコストが変わる可能性は十分にあります。
海洋温度差発電には流体の状態変化を利用するための蒸発器や凝縮器、発電機などの機器が必要なので、設備の導入コストが高いという課題も。
海洋温度差発電のポテンシャル
海洋温度差発電は、太陽光や風力発電と比べて、安定して電力を供給できる利点があります。日本では、特に沖縄周辺において海洋深層水と表層水の温度差が大きく、海洋温度差発電の導入ポテンシャルが非常に高いとされています。
具体的には、日本の沖縄県における海洋温度差発電の導入ポテンシャルは、下記のとおり。
離岸距離 | 発電電力 |
---|---|
30km以内 | 2,797MW |
離岸距離制限なし | 70,992MW |
これらの数値から、年間平均20℃以上の温度差がある地域という条件は付与されるものの、海洋温度差発電は海に囲まれた日本全体で大量のエネルギーを生成する可能性があることが分かります。
ただし、海洋温度差発電のエネルギー変換効率は、まだ改善の余地があります。
佐賀大学や久米島町の研究所など、多くの機関で発電効率の向上の研究が進められており、今後の改良に期待が寄せられています。
海洋温度差発電のタービン方式
海洋温度差発電と一口に言っても、その中にはタービン方式が異なる5つの発電の仕組みが存在します。
- クローズサイクル
- オープンサイクル
- ハイブリッドサイクル
- ミストサイクル
- フォームサイクル
それぞれ異なるメリットがありますので、ひとつずつ確認しましょう。
クローズサイクル
クローズサイクルのタービン方式では、下記5つの装置で構成された閉じたサイクルを使用します。
- 蒸発器
- 凝縮器
- タービン
- 発電機
- 作動流体ポンプ
作動流体は、まず蒸発器で高温熱源から熱を受け取ります。次に、タービンで仕事を行い、凝縮器で低温熱源へ熱を捨て、再び蒸発器で熱を受け取る流れです。
オープンサイクル
オープンサイクルのタービン方式では、下記4つの装置で構成された閉じたサイクルを使用します。
- 蒸発器
- タービン
- 凝縮器
- 発電機
オープンサイクルは、蒸発器やタービン、凝縮器内などの機器をあらかじめポンプで真空にしておきます。温海水を蒸発器内で蒸発させて水蒸気へ気化させます。この水蒸気を作動流体としてタービンに送り、タービンを回して発電を行います。
作動流体を循環させる必要がないため、作動流体ポンプは必要ありません。また、排出した水は飲料水としても使用できます。
ハイブリッドサイクル
ハイブリッドサイクルのタービン方式は、クローズドサイクルとオープンサイクルを組み合わせた発電方法です。
この方法は、クローズドサイクルの基本構造を持ちつつ、蒸発器に導入する高温熱源を変えています。
そういった仕組みから、ハイブリッドサイクルはクローズドサイクルと比較して、海水による汚染がなく、性能の低下が防げます。
ミストサイクル
ミストサイクルのタービン方式では、半潜水形をとる構造体を使用し、温海水を落下させることで水車タービンを回し、発電を行います。その後、タービンから出た海水はミスト発生器に導入され、霧となって上昇します。そして、凝縮器に入り、冷却水である冷海水によって冷やされ、水となり排出されます。
ミストサイクルは海水温度差発電の中でも設置場所に制約を受けにくく、設置コストが比較的低いという特徴があります。
ただし、設置されたタービンの回転数を制御することが難しいため、効率的な発電には工夫が必要です。
フォームサイクル
フォームサイクルのタービン方式では、半潜水形をとったサイクル内に温い海水を導入し、気泡発生器を通過させます。気泡と海水は気泡ブレーカーで分離され、海水は落下して水車タービンを回して発電します。
一方、気泡は冷たい海水によって冷却され、水となり海中に排出されます。
この方法はミストサイクルよりも簡単な構造を持ち、実現可能性が高く、運転に必要なエネルギーが少なく済む利点があります。
また、排出される液体は水となるため、環境への影響も比較的少なくなっています。
海洋温度差発電の熱電方式
海洋温度差発電の熱電方式とは、温度差を利用して発電を行う方法の一つの名称です。
異種金属を接触させたときに生じるゼーベック効果を応用したもので、海水と温度差を持つ物質を接触させることで発電を行います。
しかし、海水と空気の温度差はごくわずかであり、変換効率が低いことが課題となっています。
現在では、半導体素子を使用することで改善が試みられていますが、まだ実用的な段階ではありません。
海洋温度差発電のメリット
再生可能エネルギーとして知名度の低い海洋温度差発電ですが、実は様々なメリットを持ち合わせています。
- CO2を排出しない
- 気候に左右されず発電量が安定している
- 発電後の海水が再利用できる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
CO2を排出しない
海洋温度差発電はCO2を排出しないため、環境に優しい発電方法として注目されています。
海水温度の差を利用するため、化石燃料やウランなどの燃料を使用する必要がなく、原子力発電のような廃棄物処理の問題もありません。
海洋温度差発電の技術は、開発が進められるアンモニア燃料電池を使用することで、更にCO2排出量を削減する可能性があるとされています。
気候に左右されず発電量が安定している
海の温度差は年間を通じてある程度一定であるため、風力発電や太陽光発電のように気候の変化に大きく左右される心配がありません。気候に左右されず、安定した電力が生み出せることは、再生可能エネルギーでは大きな魅力。
また、昼夜問わず発電ができるため、発電量の予測が容易なメリットも。
発電後の海水が再利用できる
海洋温度差発電は、発電に使用した海水を再利用することができます。
海洋深層水は発電に利用する前に水中から取り出すことができるため、別途海水の取水が必要ありません。
その結果、水質汚染のリスクも低くなり、海洋環境の保護にも貢献しています。
海洋温度差発電のデメリット
メリットが目立つ海洋温度差発電ですが、下記のようなデメリットも存在します。
- 設備導入のコストが高い
- 深海の生態系へ影響を与える
- 発電プラントにより海流への影響
ひとつひとつのデメリットが大きな問題に繋がるものとなっているため、必ず知っておきましょう。
設備導入のコストが高い
海洋温度差発電には、深海から冷水を汲み上げるための配管が必要となるため、設備導入のコストが高いという大きな課題があります。
陸上に発電プラントを建設する場合は更に配管の全長が長くなりますので、コストが余計に増加します。
最近では、より効率的な発電が可能になるよう、配管の改善や海底に直接設置することでコスト削減に取り組んでいるケースも。
深海の生態系へ影響を与える
海洋温度差発電は海洋深層水を海面に引き上げ、温度差を利用して発電し、その後、深層へ戻すことで、再び温度差を作り出します。しかし、この工程が深海の生態系に影響を与える可能性があります。
深海生態系において、アンモニアなどの重要な物質が存在し、これらの物質が深層水から海面へ移動することで生態系に影響を与える可能性があるのです。
さらに海洋温度差発電で電力を生み出す工程において、海水内で温度変化が生じるため、生物の代謝にも影響を与える可能性があります。
このような理由から、海洋温度差発電は、生態系への影響に十分な配慮が必要とされています。
今後の研究開発にあたっては、生態系の調査や、技術開発による生態系への影響の予測・評価が必要不可欠。アンモニアなどの物質の移動にも十分な注意が必要です。
発電プラントにより海流への影響
大規模な海洋温度差発電の場合、海流を邪魔することで、生物の移動や栄養塩の分布に影響を及ぼす可能性があります。
この問題については、現在研究が進められており、発電プラントの設置場所や規模などが生態系に与える影響を詳細に調査することが必要です。
海洋温度差発電の久米島モデルとは
久米島で実用実証された海洋温度差発電プラントのことを「久米島モデル」と呼び、久米島では深層水を利用して年間平均26.5度の温度差がある海面の水を用いて発電しました。
久米島モデルでは、エビの養殖、野菜の栽培、島全体の電力系統にも活用されており、島の主産業の1つとなっています。
久米島モデルは海洋温度差発電を活用した環境にやさしいエネルギー源の一例であり、海洋深層水利用産業を発展させることで、地域の経済やエネルギーの自給自足に貢献しています。
海洋温度差発電の世界の開発状況
海洋温度差発電は、海水の温度差から電気を生み出す技術です。
地球上には豊富な海洋エネルギーが存在し、将来のエネルギー源として世界各地の研究開発機関に注目されています。
マレーシア
マレーシアでは、従来の海洋温度差発電の課題を解決するために、革新的な海洋温度差発電の実証を行うことが決定されました。
H-OTECと呼ばれるハイブリッド方式は、従来の課題であった熱交換器のコストや防汚対策を解決し、さらに海水の淡水化も同時に可能となるシステムとして期待されています。
フランス
フランスのレユニオン島では、海洋温度差発電によって島の25%もの電力が賄われています。
また、Akuo Energy社が2014年に西インド諸島マルティニークで16MWの浮体式海洋温度差発電「NERO」の建設を開始した実績や、タヒチと仏領レ・ユニオンにおいても10MW規模の開発プロジェクトが計画されています。
アメリカ
現在より40年ほど前の1974年から、アメリカのハワイ州立自然エネルギー研究所(NELHA)では、海洋温度差発電の研究が行われていました。
最近では、インド洋に存在するディエゴガルシア島のアメリカ合衆国海軍基地向けに8MWの発電量を誇る海洋温度差発電を計画しています。
オランダ
オランダでは、インドネシアの複数企業との提携を行った上で、バリ島で海洋温度差発電の研究を行っています。
海洋温度差発電実用化に向けての課題
海洋温度差発電を実用化するには、「耐久性」と「費用」の2つの大きな問題が存在します。
どのような内容が実用化の障壁となっているのか、確認してみましょう。
塩害や災害時の耐久性
海洋温度差発電の中で最も課題とされているのが、塩害や災害時の耐久性です。
海洋温度差発電は海水を利用するため、熱交換器などの設備が常に海水にさらされ、設備の劣化・故障が起こりやすくなっています。
海洋温度差発電の研究開発は進んでいますが、上記の課題の解決には、耐塩性や防汚性の高い材料の開発が必須でしょう。
大規模な災害時の発電量の低下
火山の噴火や地震などの災害で海水に大きな変化が生じた場合、発電量が低下する可能性があります。
高額なコスト費用
海洋温度差発電には、熱交換器や蒸気タービンなどの高度な技術が必要です。
海水が含む塩分による腐食や堆積物による劣化など、海洋環境下での耐久性の問題もあります。
継続運営にはこれらの技術的課題や環境条件への対応が必要となり、そのためには高額なコストが発生します。
海洋温度差発電の実用化は日本が一歩リード
海洋温度差発電は、海水の温度差を利用して発電を行うエネルギー源です。
この技術には非常に高いポテンシャルがあり、世界中で注目を集めています。
特に海洋温度差発電の研究開発に関しては、日本が欧米よりもリードしている面もあり、日本が海洋温度差発電の研究開発に積極的に取り組んでいることは、今後の世界的なエネルギー政策にも大きな影響を与えることが期待されます。